中村時広

昭和35年1月25日生まれ
趣味/読書、スキー、バドミントン
尊敬する人/福沢諭吉
座右の銘/至誠通天

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時の風 中村時広がお届けする発行紙「時の風」

1998年11月号 金融システムパート3

希代のテクニシャン

最近の国政の動きを見ていて、ふと思うことがある。
数年前の「住専騒動」の時、税金投入に賛成し、金融処理の雛形づくりを先送りした政治家達に、果たして金融問題を語る資格があるのであろうか。

消費不況の引き金を引いた消費税5%アップ法案や、デフレ経済を後押しした財政改革法案に賛成した政治家達に、
果たして景気問題を語る資格があるのであろうか。

物事には原因があるから、結果がある。
とりわけ、現在の経済情勢には、一連の政策が深く関わっている。

政治は結果責任である以上、過去にフタをしてしまうことは許されまい。
国会やテレビ番組で論陣をはる与党政治家達は、自身の過去の行動には、素知らぬ顔を貫き通す。

過去を知らないものが聞けば、発言がもっともらしく聞こえてしまうから厄介である。
現在の経済危機の原因を作り出したこれらの法案審議について、それぞれがいかなる立場で振る舞ったのか、
そうした過去の行為に触れるならば、説得力も持つ。

そうでなければ、ズルさと弁論術に長けた、単なる「テクニシャン」としか言いようがない。

宿題は早めに

また、あえて過去に触れさせて頂いた今一つの理由は、する必要のなかったことを、しなければならなくなってしまったことにある。

多くの人たちは、率直に思っているであろう。

何故、金融機関にだけ、経営環境が厳しいからといって、巨額の税金が投入されるのだろうか。

何故、情報公開があいまいなままで、許されてしまうのだろうか。

何故、巨額の税金が投入されるにもかかわらず、誰も責任をとらされないのだろうか。

数年前の住専問題は、まさにこのテーマを巡っての攻防戦であった。

宮沢大蔵大臣が、過日の国会審議の中で認めたように、住専問題は、自民党の大口支持母体である農林系金融機関救済に、真の目的があったことは明らかであった。

しかしながら、当時の国会では、いくら質問戦でそれを追求しようとも、政府・自民党は農協隠しの姿勢を貫き、預金者保護、金融システム安定のための税金投入というお題目を唱え続けた。

当時、私たちの陣営は、不透明な税金投入を認めず、きっちりとしたルールの下に処理を行い、責任者にはその名の通り責任をお取りいただく、そのことにこだわったのだ。

残念ながら、数の力で税金投入が実行されたことは、ご承知の通りである。

この時に一定の透明なルールを作り上げることができたならば、不良債権処理は迅速に進み、
国際マーケットの信用も上昇、金融問題の処理にこれほどのコストがかかることはなかったのである。
夏休みの宿題を早めに終えておけば、終盤に徹夜を続ける必要もなく、寝不足や体調不良にもならずにすむ。
今日まで、期間は十分にあったはずである。返す返すも残念でならない。

先送りのツケ

それから数年、やがては地価も株価も回復し、不良債権問題も解決するであろうとの政府の期待は、
完全に空振りの三振に終わり、事態は一層深刻化した。

ことここに至っては、ある程度大ざっぱな形での巨額の税金投入も、
それを実施させるための責任問題の猶予すらも、メニューにあげざるをえないであろう。

その課程で整理・淘汰される金融機関が出てくることも避けられない。

だからこそ、このような過酷な状況を迎えねばならない基本的原因が、
ここ数年の金融政策、経済政策に起因することを明確にしておく必要があると思う。

貸し渋りの正体

先号で触れたように、金融業界には国際化の嵐が吹き荒れ、世界基準に基づいた経営を義務づけられるようになった。
その中に、銀行の健全性を高めてゆくために設けられた「BIS規制」というものがある。

簡単に言えば、総資本(総資産=貸出を含む)に対する自己資本(資本金など)の比率である。

この比率を一定以上(国際業務の場合8%)維持しないとダメですよ、というルールになっているのだが、
問題はこの自己資本の中に、株の含み益が入っていることである。

それ故に、バブル崩壊で株価が下落すると、自己資本は一気に減少してゆき、業務に支障をきたす恐れがでてきたのである。
政治・行政の問題先送りが、傷を一層深くしてゆく。

銀行は自己防衛のために、自己資本比率を高める策をとる。
消費減退で経済は失速しているため、自己資本そのものを積み上げる状況ではないために、もう一つの手段、分母に当たる総資産の一部である貸出を減らすことによって、これを達成しようとし始めた。

これが世にいう「貸し渋り」である。

玉突き現象

日本の中小企業を中心とするものづくり産業は、世界有数の技術を誇っているものの、一つ弱点を抱えている。
資金の大半を、銀行借入に頼っているということである。
貸し渋りにより、資金が枯渇すれば、力強い産業も壊滅する。
その意味で、金融問題はまさに日本の経済問題そのものに直結しており、待ったなしの対応を迫られているのである。

よみがえる住専

金融問題はスピードとの戦いである。
巨大マーケットが政策の進捗状況をこと細かに注視し、容赦なく襲いかかってくる。
それにもかかわらず、今回の金融政策論議には、本当に大量の時間を費やす結果となってしまった。
日本の国会におけるシステムの問題もあるのだが、そこには特殊事情が存在していた。
日本長期信用銀行の問題である。
長銀問題の本質とは、一体何であったのであろうか。
長銀の子会社に、「日本リース」というノンバンク会社がある。

ここに多額のお金を貸し込んでいたのが、またまた出てきたという気もするが、農林系金融機関であった。

貸付総額は3400億円にも達し、その内10信連分の310億円は、無担保で融資していたとのことであるから、お話にもならない。
でたらめな融資を行った責任者たちが、責任追求を恐れ、政府・自民党に泣きついていったのも頷ける。

住専の時と同様、再度、農協救済作戦が巧妙に練られていった。

今度はダメよ

当初、政府・自民党案では、長銀の日本リースに対する多額債権を放棄させ、
日本リースを身軽にして農協への返済をスムーズに行おうとしていた。

その分に見合う税金を、金融システムの安定の名の下に長銀に投入して、辻褄合わせを行おうとしたのである。

まさに住専の再現である。

簡単に言えば、
「日本リースさん、長銀さんから借りた分はチャラにしてやるから、農協さんにはきちんとお返しなさいよ。
長銀さんも、自分の子供に貸した分は、もうよいではないですか。
代わりに、その分だけ税金を差し上げますから。
そうすれば、誰も傷つかず、みんなハッピーですよ。」
ということである。
しかし、この手法は野党共闘によって、ものの見事に粉砕された。
参議院選挙の結果が、審議に反映されたのである。

長銀の同社に対する債権放棄は撤回され、同社は会社更生法適用の道を選択、
農林系金融機関の融資実体がようやく明らかになったのである。
もし農協対策をやるのであれば、それはそれで、ハッキリと国民に示せばよいのである。

真実はここに

また、どう考えても長銀は破綻状態にあるにもかかわらず、政府・自民党は、その事実を認めようとしなかった。
それには二つの理由がある。

一つ目は、法律そのものに対する問題である。
本年三月に制定された金融安定化特別措置法によれば(過日、同法案は廃案となり、巨額の税金をばらまいて、その短い生命を終えた)、
税金の投入は健全な銀行に限定されており、破綻を認めれば長銀への税金投入ができなくなるため、認めるわけにはゆかなかったのである。

二つ目は、長銀に対して実施した、税金投入に対する責任問題である。
本年三月、政府・自民党は金融システム安定を口実に、無差別に税金を銀行に振る舞った。

その中で、長銀も健全銀行として扱われ、既に一三〇〇億円もの税金を投入されていたのである。
半年とたたないうちに破綻では、検査体制、税金損失に対する責任問題が生じる。

この点からも、政府・自民党は、まさにメンツをかけて、破綻を認めるわけにはゆかなかったのである。
それ故に、交渉は長期化した。

スピードが要求される金融問題に、多くの時間を費やした損失は、あまりにも大きいものがある。
その主たる理由が、実質的に破綻状態にある長銀に対し、健全な金融機関向けの資金を投入しようと画策した、政府・自民党の意図にあったことが、浮き彫りにされなければならない。

手形は落とすもの

人間は、とかく目の前の現実だけに目を奪われがちになり、真実を見失う。
古今東西、政治家は、時としてその特徴を巧みに利用している。
それ故に、多くの有権者は選挙時に乱発して振り出される、公約という名の空手形に、いともたやすく裏書きしてしまう。
その大半が不渡りとなって返ってくる結果、政治不信が増幅してきたのではあるまいか。

手形を有効なものとするためには、有権者が、テクニックに長けた政治に欺かれない目を持つしか方法はない。
専門用語や数字は、時として人を欺く手段にもなる。

そうしたものに惑わされず、それぞれの政治家の、過去も含めた節目における行動を視野に入れ、
選択する人が増えてゆけば、政治にも緊張感が生まれてゆく。

金融問題を通じて、そんな空気が高まることにつながれば、長い目で見て、大いに意味のあることだと思う。